平成27年度に俗に言う「宅建の士業化」が行われ、「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」へとその名を変えました。
今回は改正が行われた理由と改正された法律を分析し、試験に対して与えた影響などを一緒に見て行きましょう。
目次
「宅建士」の誕生 ~士業となった理由~
宅建の名称変更が決まった直接の理由は、平成26年6月25日に行われた宅地建物取引業法の改正です。
士業化は今になって急にわいた話ではなく、以前から公益社団法人の全国宅地建物取引業協会連合会という組織が中心となって議会に対して働きかけていました。
それが今回の改正審議の通過を経て、不動産取引の専門家として、取引主任者の名称を「宅地建物取引士」に改称すると定めた事に依拠しています。
複雑化する独占業務
宅建士の名称変更にある背景として、最も大きな要素は「高度化する宅建士の業務」です。
特に宅建士の主要な業務である「重要事項説明」は年々複雑化の一途を辿っており、その説明項目は宅建業法制定当初よりも大幅に増加、専門化しています。
(法改正後の変更点ですが)直近の改正では建物状況調査(インスペクション)の結果説明を宅建士が行う重要事項説明の項目に加えるなど、宅建士に求められる責任は現在もなお増加している状況です。
このような事情を考慮すると、宅建士を「士業」の1つに追加して、その専門性を高めようという意図は十分に理解できるものでしょう。
増加する中古住宅と宅建士に求められる役割
名称変更に伴うもう1つの背景として、日本国内における中古住宅の流通活性化という事情があります。
以前の日本は新築に対する執着が強く、欧米と比較して中古物件の流通割合は低いものでした。
しかし、本来これらの中古住宅を活用することは、社会的利益に叶ったもの。
近年、リフォーム事業や住宅金融サービスの拡大に伴い、中古物件の取引もにわかに活況を見せ始めています。
不動産業界においても、宅地建物取引の専門家である宅建士が中心となって中古物件の取引を円滑化することで、以前よりも高い専門性を以って社会的利益に貢献する事が求められているのです。
「宅建士」になって変わった法制度
宅建士への名称変更に伴い、宅建士を取り巻く法制度はいくつか変更されました。
主な変更点は以下の通りです。
名称変更に伴い変更された法制度
1、「暴力団員」を欠格事由とする(宅建業法5条及び18条)
業法改正により暴力団員と定義された人は宅建業者としての免許を受けることができなくなりました。また、宅建士としての資格登録も行うことができません。
近年の反社会的勢力の撲滅を狙う一環としての立法であると推察されます。
2、宅地建物取引士の業務処理の原則(同法15条)
これまで宅建士としての業務原則は明文化されていませんでしたが、今回の士業化に伴って明文化されるようになりました。あくまで理念的な法律になりますが、宅建士は「購入者の利益の保護」と「円滑な宅地建物の流通に資する」ことで、公正かつ適正に業務を執行するよう、本法は求めています。
3、信用失墜行為の禁止(同法15条)
「宅建士」という資格が持つ信用性を自覚し、取引の相手だけでなく社会全体から信頼されるよう、信用を失墜させるような立ち振る舞いを禁止した法律です。
4、知識及び能力の維持向上(同法15条)
宅建士を取得したからには、常に最新の法律や制度を把握し、宅地建物取引の専門家としてふさわしい知識や能力の維持を努力義務として制定している法律です。
ペーパー受験の方も宅建士なったからには、法制度の確認は怠らないようにしましょう。
5、従業者の教育(同法31条)
これは宅建士のみに課されたものではありませんが、不動産業界全体が従業員の教育を行うよう義務付けることで、業界の適切化を図ったものです。宅建士は不動産のエキスパートとして、不動産業に携わる者の中において主導的役割を果たすことが求められます。
宅建士の士業化!気になる宅建試験や合格率への影響は?
宅建士への名称変更及びそれに伴う宅建業法の改正が行われた当時、様々な方面で試験問題の難化や合格率への影響が心配されていました。
既に名称変更後2回ほど宅建士試験が実施されたものの、幸い合格率そのものに大きな変動はありませんでした。
ただし、試験問題は若干高難度化の動きを見せており、今後も目が離せない状況です。
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平成28年度は「15.4%」。昨年度と変わらず。
平成28年度の合格率は平成27年度と同じく「15.4%」に留まりました。
平成29年度の合格率は未だ不明ですが、過去数年の推移を見ても合格率自体に急激な合格率の調整が入る事は無さそうです。
これから受験する方にとっては、一安心といったところではないでしょうか。
試験問題はやや難化。正確な知識の習得が求められる。
ただし、合格率に大きな変動がないからといって、問題の難易度まで同じというわけにはいきません。
特に直近の平成28年度試験は過去の出題よりもやや難化傾向にあり、判例問題や実務ベースの問題に加えて、周辺知識など細かい知識を問う部分からの出題が目立っています。
また、数年前より出題されるようになった「個数問題」も相変わらず出題されており、10年前の宅建試験ような過去問の焼き直し、単純な4択問題の数は少なくなっています。
上昇する受験者のレベル
さて、これまで見てきた「合格率の維持」と「試験問題の難化」。
この2つを掛け合わせると、見えてくるものがあります。
そう、「受験者レベルの上昇」です。
宅建試験の難化に伴い、以前と比べて合格に必要な知識の深さは大きく上昇、宅建試験に挑戦する受験者は問題に対応すべく、それぞれが相当な努力をしています。
ネットには「誰でも受かる」「余裕で合格」といった根拠のない情報も溢れていますが、合格率はたったの15%前後です。
無事合格という成果を掴むためには、慢心する事なく勉学を続ける以外にありません。
まとめ
宅建は毎年数多くの挑戦者が門を叩く「大型資格」です。
宅建試験の終了後は大通りを埋め尽くすほどの人が溢れますから、初めて受験した方はその規模の大きさにさぞ驚くでしょう。
そして、試験に合格するのはその中でも10人につき1人か2人です。
無事合格を掴むためには、情報の収集と適切な教材の選択がカギとなります。
試験に勝ち残れるよう、適切な教材で効率的な学習を進めましょう。